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松山地方裁判所 昭和38年(ワ)319号 判決 1966年7月04日

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告

1  被告尾崎アヤメは、原告に対して、別紙第二目録の建物(以下本件建物という。)を収去して、同第一目録の土地(以下本件土地という。)の明渡をせよ。

2  原告に対して、被告尾崎芳一は本件建物のうち(A)部分(第二目録の(い)(ろ)(は)(に)(い)の各点を結んだ範囲)、被告小林静江は同じく(B)部分((に)(は)(へ)(ほ)(に)の各点を結んだ範囲)、被告横山ササヨは同じく(C)部分((と)(ち)(ぬ)(り)(と)の各点を結んだ範囲)、被告山中儀太郎は同じく(D)部分((と)(ち)(を)(る)(と)の各点を結んだ範囲)からそれぞれ退去して本件土地の明渡をせよ。

3  訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。

4  仮執行の宣言。

二、被告ら

主文と同趣旨。

(原告の請求原因)

一、もと松山市湊町四丁目二八番地の二宅地一四二坪八合三勺(以下本件従前地という。)は、関谷ツ子ヨの所有であつたが、土地区割整理事業施行者である松山市長は、昭和二三年一月中、本件従前地について、別紙第一目録のB六〇とB六一(それぞれ赤線で囲まれた範囲)を仮換地(以下本件仮換地という。)として指定した。

二、関谷ツ子ヨは、昭和三六年一二月二〇日、本件従前地を原告・関谷紀・関谷勝子・関谷捷紀及び関谷英夫に贈与し(持分平等)、昭和三七年一月一三日、その旨の所有権移転登記を経由した。そして、本件従前地は、同年六月一二日、次の三筆に分割された。

(1)  二八番地の二 宅地 五〇坪二勺

(2)  同番地の三  宅地 五三坪九合九勺

(3)  同番地の四  宅地 三八坪八合二勺

三、昭和三九年四月、本件従前地のうち前項(1)の土地について、松山市湊町四丁目一番地一七宅地三六坪七合四勺(本件土地)が換地処分となり、公告された。その範囲は、別紙第一目録中B六一のうち斜線部分である。以上の経緯により、原告は本件土地について持分五分の一を有する。

四、被告尾崎アヤメは、本件土地の上に本件建物を所有し、その余の被告らは、それぞれ本件建物のうち請求の趣旨に掲げた部分に居住して、本件土地を占有している。

五、よつて、原告は、本件土地持分に基づく保存行為として、被告らに対し、それぞれ本件建物収去または退去の上本件土地の明渡を求める。

(被告らの答弁)

原告の請求原因事実は全部認める。

(被告らの抗弁)

一、被告尾崎アヤメは、本件土地について貸借権を有する。すなわち、被告アヤメは、昭和二二年三月、当時の所有者関谷ツ子ヨの代理人である関谷紀から、本件従前地の一部約三〇坪を、建物所有の目的で、期間は定めず、賃料は一年一、五〇〇円の約束で賃借し、ついで、翌二三年右土地の西側約七坪を増し借りして、賃借地が現在の本件土地の範囲と一致するに至つたのである。賃料は、その後再三値上されて、昭和三七年度以降一年二万円となつた。

二、被告アヤメは、昭和二二年七月、右賃借地上に建坪九坪五合の木造住宅を建築し、その後増改築をして、昭和二六年一〇月一五日、第二目録のとおり所有権保存登記を経由した。したがつて、被告アヤメの本件土地賃借権は、その後に本件土地の所有権を取得した原告ら共有者に対抗することができる。また、共有者の一人である関谷紀は、他の共有者(紀の子と妻である。)の同意をえて、本件土地を被告アヤメに賃貸していたともいえる。

三、被告芳一は、被告アヤメの夫であり、家族として同居している者であり、その他の被告らは、それぞれ本件建物のうち占有部分を被告アヤメから賃借している者である。

(抗弁に対する原告の答弁)

一、抗弁事実中、被告アヤメがその主張のように本件建物の保存登記をしたこと及び原告ら共有者の身分関係は認めるが、その余はすべて争う。関谷紀は、昭和二二年二月ごろ、愛媛県池中養殖特別漁業会(同会は昭和二四年一〇月一三日解散した。)から本件従前地の一部の借用方を申込まれていたから、被告アヤメに対してこれを賃貸するはずがない。もつとも、その後紀が被告アヤメから金銭を受領したことはあるが、それは、同被告が無断で本件従前地の一部を使用しているので、その損害金として受領したにすぎない。

二、仮に、関谷ツ子ヨと被告アヤメとの間に、本件従前地の一部について賃貸借契約が成立したとしても、同被告は、本件土地について権利を有する者ではない。すなわち、

1  被告アヤメは、本件従前地の一部を賃借する者であつて、土地区画整理事業の施行者から使用収益しうべき部分の指定を受けていないから、仮換地について現実に使用収益することができない。(昭和四〇年三月一〇日最高裁判所大法廷判決)

2  仮換地の使用収益権は、仮換地処分によつて付与される公法上の権利である。ところで、被告アヤメは、本件従前地について仮換地の指定があつた後換地処分が終了するまで、権利申告の手続をしないで、本件仮換地の使用収益を継続した。

すなわち、同被告は、本件仮換地を正当な権原に基づいて使用収益したものでない。したがつて、本件従前地の一部について存した同被告の権利は、換地処分の公告のあつた日の終了をもつて消滅した。(土地区画整理法一〇四条一項・二項後段)

(原告の主張に対する被告らの反論)

一、被告アヤメが本件仮換地について施行者から賃借権の指定を受けていないことは争わない。しかし、そうであつたからといつて、本件従前地に対する賃借権が消滅する理由はない。

けだし、仮換地指定の効果は、賃借権者についていえば、従前地についての賃借権はあるが、従前地について使用することはできず、その代り、仮換地については、賃借権はないがこれを使用収益することができるとしたものであつて(土地区画整理法九九条)、したがつて、従前地については、使用収益の権原なき権利が残ると解されるからである。もつとも、同法には、賃借権について申告がない場合、同法三章二節から六節までの規定による処分又は決定をすることができると定めているが、このことによつて、権利申告懈怠により実体上の権利を消滅させる効果を定めたものとは解しえない。原告挙示の最高裁判所判決は、権利申告の手続をしなかつた者は、仮換地について現実に使用収益することができないといつているだけで、実体上の権利消滅について判断したものではない。

二、ところで、被告アヤメが賃借した土地(三六坪七合四勺)は、すでに述べたとおり、本件従前地(一四二坪八合三勺)の一部であつたが、本件従前地について昭和二三年一月仮換地が指定されたところ、原告らは、昭和三七年六月一二日本件従前地を分筆するに際して、本件仮換地がいわゆる現地換地であり、被告アヤメが従前より使用していた部分がそのままの状態で仮換地上にあつた関係上、同被告の使用位置及び範囲をそのままにして、これに本件従前地が減歩仮換地になつた減歩率の二割六分五厘五毛を加算して、同被告の借地部分に相当する土地を松山市湊町四丁目二八番地の二宅地五〇坪二勺とした。したがつて、原告のいう被告アヤメの賃借権が本件従前地の一部に存したとは、本件の場合もはやこれに該当せず、右分筆の昭和三七年六月一二日以降は、従前地たる右宅地五〇坪二勺全部について、被告アヤメが賃借権を有していたと同様に見るべきである。

三、仮にそうでないとしても、本件仮換地はそのまま換地処分になり、右宅地五〇坪二勺について本件土地が換地処分になつたのであるが、原告らは、右分筆に当り、被告アヤメの使用していた土地の位置及び範囲を、将来換地処分のあつた後でも、そのとおりであると確認しているし、さらに、賃貸借当初にかえつても、昭和二二年三月当時は、すでに特別都市計画事業が施行されていて、本件従前地もその地区に含まれていて、仮換地指定の直前に当つていた事情に鑑みれば、賃貸借当事者間においては、仮換地及び換地処分後も本件土地の位置・範囲をそのまま賃貸するとの合意があつたものと見るのが、その合理的意思に合致する。

四、したがつて、被告アヤメの賃借権については、施行者より指定はなかつたが、すでに換地処分がなされたので、その効果として、本件従前地のうち宅地五〇坪二勺について存した賃借権は、その換地である本件土地の上に当然移行する。(なお、土地区画整理法一〇四条一・二項には、換地計画において換地を定めなかつた従前地について存する権利及び換地について目的となるべき宅地部分を定められなかつた従前地について存した権利は、換地の公告があつた日が終了した時において消滅すると規定されているが、これは、過少宅地について、又は関係権利者の同意による換地不指定清算処分がなされた場合のことを指称し、未登記借地権が存する従前地について換地が指定されたが、借地権について換地もしくはその指定がされなかつた場合は含まないと解される。)

五、仮に、以上の主張が認められないとしても、次の事由により原告の請求は失当である。すなわち、

本訴は、原告関谷隆一の提起したものであるが、同人は、本件土地の他の共有者とは親子又は兄弟の関係にあり、ことに、本訴の実質的遂行者はその父関谷紀である。ところが、紀は、長年月にわたり被告アヤメに本件土地(その従前地とも)と使用を容認し、その間土地使用の対価として賃料相当の金銭を受領して来た。そして、被告アヤメは、本件土地上に本件建物を所有してこれに居住し、他の被告らもこれに居住して、生活の基礎を築いて来たのである。このような事実関係のもので、原告が本訴請求に及ぶのは、信義誠実の原則に反し、かつ、権利の濫用として許されないところである。

(証拠関係)(省略)

別紙

第一目録

松山市湊町四丁目一番地一七

宅地 一二一・四五平方メートル(三六坪七合四勺)

(左図の斜線部分)

<省略>

第二目録

松山市湊町四丁目一番地一七

家屋番号六〇番二

店舗兼居宅木造瓦葺平家建

建坪 五四・四七平方メートル(一六坪四合八勺)

<省略>

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